※ラクシュリ視点




朝の森ぐらい静かに歩きたいものだ。
気付けば僕達は、モンスターの群れに囲まれていた。
獰猛な歯を向きだしこちらを睨む獣には、どう考えても交渉の余地は無い。
それでも誰も殺さないのがエクサのやり方だ。僕もアンジェリカもそれは十分分かっているし、シーラも最近はそれに従うようになった。
重りの付いた双剣を手に握り、一気にエクサと協力してモンスターを蹴散らす。
後ろでアンジェリカとシーラが魔術を使って群がるモンスターを追い払うが、数が圧倒的に多い。

「…キリがない!別れて逃げよう!!」
剣を振るいモンスターを気絶させたエクサが、僕ら3人に向け高らかに叫んだ。
確かにそれが最善かもしれない。
「次の街で合流するぞっ!」
「わかりました!!」
「りょーかーいー」
「あいよ!」
エクサの言葉に3人は頷き、それぞれ別の方向に向け走り出す。
四方向に別れたは良いが、数の多さ的に数匹は追い掛けて来る事は予想の範疇だった。
振り返り、追い掛けてきたモンスターの後ろに即座に周り混んで峰打ちを繰り返す。
数匹薙ぎ倒した所で、再び森の奥に向け足を走らせた。
「…ちっ!!」
突如前から現れたモンスターに足を止め、鞘を振り回しモンスターを蹴散らす。
別れても余り意味は無かったのか?
今更そんな事を思ったが遅い。
エクサはともかくアンジェリカとシーラが無事に街に辿り着いてくれれば良いのだが――。

「しつけーんだよっ…!!」
双剣を振るい、再びモンスターを振り切る為に走り出した。
だがどうしてだろうか。徐々に足の力が抜け、気分が悪くなって来る。
…不眠症のデメリットが、こんな所で出て来たみたいだ。
冗談じゃない。頭を押さえつつ鞘を振ったが、上手く立ち直れない。2匹を蹴散らすのが精一杯だった。

くそっ、どうする…?
崖っぷち状況だ。
走れないというのにモンスターの数は余り減って居る様に思えない。――4人で退治していた時より数は幾分かマシになっているが……。
…そうして、前足で十分な助走を付けたモンスターの1匹が、木に凭れて動けない僕に向け突進してきた。
ヤバい。両目を瞑った瞬間――。


「――!」

飛び出してくる影が合った。


一瞬モンスターが増えたのかと身構えたが、現れた影はモンスターを蹴散らし、踵を返して僕の肩を掴む。



「大丈夫か?ラクシュリ」

「……エクサ?」


そこには先程別れた筈のエクサが、剣を片手に立っていた。



02*アナザー・アビリティー



10-08,19


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