※ラクシュリ視点




…エクサにだけは悟られたくなかった。
彼は普段から幾つもの悩みを抱えている。だから、これ以上心配は掛けさせたくなかったのに――。
僕はひょっとして嘘が下手なのかもしれない。眠れていないことも、体調が優れないことも簡単に見破られてしまった。
エクサの腕の中で、思う。
彼は今何を考えて居るのだろう。
此処に居ないシーラちゃんやアンジェリカの事か?倒さなければならない魔王の事か??

何にせよ、考えてている事が僕の事じゃなければいい。僕がエクサに迷惑を掛けるのは懲り懲りだ。
エクサに気を使わせないよう、瞼を閉じて寝た振りをすれば、顔は見えないが彼が笑った気がした。
彼は僕を地面に下ろすと、置いていたコートを布団変わりに僕に掛け、直ぐ横に腰を下ろす。
だから良いって言ってるのに。一度返したコートを掛けられ不毛な気分になった。
それでも強情に眠った振りを続ければ、エクサは僕の背中に触れる。傷を気にしているのだろう。
確かに痛みは有るが直ぐに良くなる痛みだ。
キミが気にすることじゃないと言ってやりたいが、口を出せば起きている事がバレてしまう。唇を噛み締めた。


「…お前には、負担ばかり掛けているな」

完全に僕が眠っていると思っているエクサは、ぽつりと言葉を語り出した。
何弱気になってんだよ。第一キミが僕に負担を掛けた覚えなんてない。
ああ、言ってやりたい。
噛み締める力が強くなる。

「……お前が俺を庇った時、何であんな無茶をしたんだって、本気で思った」

そりゃあ、キミは勇者で僕は右腕だ。
キミを守るのが僕の義務なんだ。
あの状況でキミを守らなかったら、僕は右腕失格だよ。

「……誰も失いたくないんだ。
アンジェリカも、シーラも。…お前も」

だからそれがキミの甘さなんだ。
アンジェリカも僕も死ぬ覚悟なんて当に出来ている。
シーラちゃんだって、きっとそうだろう。

「…甘えでも良い。それでも俺は――」

――エクサ?

「もう誰も、死なせたくない」


…そうか。
エクサは故郷を無くしているんだよな。
何時か聞いた話を思い出し、エクサに見つからぬ様拳を握り締める。
きっと沢山の人が死ぬのを見たのだろう。
友人も、親しい人間も、家族さえも殺されて。
一人生き残った彼は一体どれ程孤独だったろう。


「……お前が聞いたら怒りそうだな」

聞いてるんだけどね。
心の中で突っ込みながら、瞼の裏に今のエクサの表情を想像する。
きっと、悲しいくらい儚く優しい瞳をしているのだろう。それがエクサという人間だ。
エクサの手が頭に触れる。
何時もシーラちゃんにする様に優しく頭を撫でたエクサは、僕に微笑んでいる気がした。


だがそれも束の間。
不意に撫でる手を止めたエクサが、その場を立ち上がった。
何事かと思い、周りに神経を研ぎ澄ませる。

…殺気?

「…直ぐに戻る」
エクサはそう言い残し、独りで森奥に入って行った。
茂みを掻き分ける音が遠ざかってから、僕は目を開け体を起こす。

微かに感じた気配。
あれは確かに僕達に向けられた殺気だった。
辺りを見回すとエクサは剣を持ち出している。間違いない。近くにモンスターが居るんだ。
一瞬迷ったが、僕は立ち上がりエクサの後を追い掛ける事にした。
痛む傷を引きずりながら、地面に置かれた双剣を掴み、森の奥へ足を踏み入れる。

「…これは……」
森を進んで直ぐ、樹の幹に微かな血の跡を見つけた。
…信じたくないが、まさかこれはエクサの……??
嫌な予感がする。僕は剣を縛り付ける鞘を外し、血の摩られたへ走り出した。



05*哀話シノプシス



10-08,20

シノプシス=あらすじ・概要。


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