※ラクシュリ視点 ――………。 混沌とした意識の中、何処かで僕を呼ぶ声がした。 ――ラク…シュ…リ………。 耳に届く微かな声。 それがアンジェリカの声だと分かった途端、僕の意識は現実に引き抜かれた。 はっとなり、目を覚ます。 …目の前には、心配そうに僕を見るアンジェリカとシーラちゃんの姿が合った。 「良かった…!目が覚めたのね」 …状況が読み込めない。何を言えば良いか戸惑えば、横からシーラが声を出した。 「ラクシュリ、随分うなされてたにゃー」 …うなされてた? 混雑する記憶を整理し、暫し考える。 やがてたどり着いた結論。 …そうか。 エクサが死んで僕も死ぬ、あの嫌な世界は夢だったのか。 どうやら僕は、エクサのあの独り言を聞いてる間に眠ってしまったらしい。いや、それ以前からか…? 何時眠ったかは曖昧だが、何にせよあれが夢で良かった。安堵して体を起こそうとすれば、背中に痛みが走る。 …忘れてた。背中を怪我していたんだった。顔を歪めるとアンジェリカが心配気に身を乗り出した。 「大丈夫?」 「…ああ」 傷のことは隠した方が良いだろう。2人に余計な心配は掛けさせたくない。 大分意識が戻って来た所で、改めて疑問が浮かぶ。 「…どうして此処に?」 ――街に居る筈の2人がどうして此処に居るのだろう? 問い掛ければ、待ってましたとばかりにアンジェリカが怒りだした。 「幾ら待っても貴方もエクサ様も来ないんだもの。心配してシーラちゃんと探しに来たのよ」 成る程。どうやら僕達は思っていた以上に2人に心配を掛けたみたいだ。軽く謝り、空を見上げる。 …思っていたより時間は経っていない様だ。真夜中なのか、空が黒かった。 「ところでラクシュリ」 シーラちゃんが僕の肩を叩く。何事だろうと彼女を見れば、彼女はあどけない笑顔を見せた。 「勇者は何処だ?」 ――刹那、思考が停止した。 確かに、エクサの姿が見当たらない。 …2人が来た時から彼は居なかった…? 嫌な予感が心音を高ぶらせる。 まさか。彼がモンスターを討伐しに行ったのは夢では無いのか…?? 慌てて立ち上がり、夢で血の付着していた木に近付いた。 頼む。普通の木で合ってくれ――!! 駆け寄り、樹の幹に顔を近付ける。 「…やだ…血……?」 追い掛けてきたアンジェリカが呟いた。 ――そんな馬鹿な。有り得ない。 樹の幹には夢で見た通りに、血が付着していた。 …あれは夢じゃ無かった? 心音が高まり、冷汗が手に滲む。 「ラクシュリ?!」 無意識の内に僕は走り出していた。 あの夢の様に森を進み、そして視界が拓ける。 ――そこでエクサが立ち尽くしていた。 「エクサ!!」 嫌だ。死ぬな。 後ろ姿の彼に手を伸ばす。 ――その手を、彼は簡単に受け止めた。 「ラクシュリ…?目を覚ましたのか」 ああ、エクサだ。 …どう言えば良いかわからない。だが胸の内に確かな安堵感が広がった。 「エクサ様!」 「勇者っ!」 後ろからアンジェリカとシーラが声を出して僕等に追い付く。 「アンジェリカに…シーラ?」 剣を鞘に納めた彼が、近付く2人に声を掛けた。 2人は先ほどの僕に言った言葉に似た言葉をエクサと話す。 「木の幹に血が付いてたぞ。怪我してんのか?」 その中で、シーラちゃんが疑問に触れてくれた。僕もそれが知りたい。顔を上げれば苦笑する彼が見える。 「帰り道が解らなくなると困るから、血で軽い跡を付けておいたんだ。心配掛けさせてすまない」 …な、んだ。 やっぱりあれは夢だったのか。 心配した僕が馬鹿みたいじゃないか……。 「…ラクシュリ…?」 膝が折れ、僕は地面に崩れた。 なんだ、そうだったのか。 口元が緩んだと同時、目頭が熱くなり、幾重もの涙が滴り落ちる。 それを見たエクサが驚いた顔をして膝を付いた。 「どうした?!」 「……か、った…」 ――良かった………。 言葉に表せない安心感に、際限無く涙が零れ落ちる。 嗚咽を吐くと、アンジェリカが後ろから背中を摩ってくれた。彼女は僕を慰めながら、エクサを見、言葉を紡ぐ。 「怖い夢を見たみたいなの」 「………」 そうか、と小さく呟いたエクサが、僕を引き寄せ抱きしめた。 …ああ。本当に夢で良かった。 腕の中で柄にも無く吃逆と嗚咽を繰り返す。 キミが僕達を失いたくない理由が、分かった気がした。 07*断腸エクジット 10-08,20 エクジット=出口 Back→06*レーキの世界に終焉を Next→08*哀話シノプシス-燦たる出口- Back |