※エクサ視点




「止めろっ…!!」
切り掛かってきたラクシュリの剣を受け止め、一歩後ろに引き下がる。
下手に傷つければ一緒に傷つくのはラクシュリだ。
元々重症人の彼にこれ以上酷い傷を負わせれるものか。唇を噛み締めていれば、シーラが肩を叩き、廊下を指差した。
「近距離で攻撃出来ないんだったら魔法しかない!とにかく宿からでよう!!」
回復を済ませたアンジェリカも立ち上がり、廊下と俺の顔を交互に見ている。
…確かに。近距離からの攻撃が難しい以上、外に出て魔法を当てるしかない。
幸いシーラもアンジェリカも俺も術使いだ。無理ではないかもしれないが、魔法は飛び火が大きい。
露緘でモンスターラクシュリから引き離しても、彼に術が飛び火したり、モンスターがラクシュリを盾にしたら……。

「……分かった」
不安は募る。だが、宿内で戦う事がデメリットなのは分かっていた。
シーラの案に従い、廊下に飛び出し階段の窓から外へ飛び出す。
アンジェリカとシーラもそれに続き外へ飛び出してくるが、それはラクシュリを操るモンスターもだった。硝子に突っ込んで部屋の窓を蹴破り、破片と
共に地面に降り立った男は剣を構えて賎しく笑う。
…硝子によって無数の擦り傷が出来ていた。モンスター自身は痛みを感じないようだが、ラクシュリは……。

「…アンジェリカ。ラクシュリに露緘を掛けれるか?」

…やるしかない。
これ以上ラクシュリの体を傷付ける前に、あのモンスターを倒さなくては。

「…わかりました」
頷いたアンジェリカが後ろで術を使う準備を整え出した。
「シーラは、少し下がっていろ」
「えー」
最近でこそ力の加減を覚えたらしいシーラだが、彼女の攻撃はモンスター特有の大掛かりな攻撃が多い。
手元が狂った。などは絶対に許されない。相手はモンスターが寄生してると言えども、俺達の仲間なのだ。
ミラージュの柄を握り締め、再び切り掛かってきたラクシュリの刃を受け止めた。
対等していれば、唇を歪ませたラクシュリが片手で剣を持ち、開いた片方の剣で有ろう事か宿主の腕を斬った。
「っ……!」
飛び散ったラクシュリの血が頬を霞め、霞めた頬が針を刺すような痛みを発する。
…乗っ取った人間の体液も刺激物に返れるのか…!!
刃を交えるのは危険と察知し、後ろに引き下がった。
同時にアンジェリカがロッドの切っ先をラクシュリに向ける。術が完成したようだ。
言霊を吐こうとしたアンジェリカに、ラクシュリは苦痛の顔を浮かべた。
「止めて、くれ…アンジェリカ……」
「――!」
彼女の腕が止まり、術の発動が未遂に終わる。その一瞬の隙に、賎しく笑ったラクシュリが此方に踏み出して来た。
「アンジェリカ!!」
咄嗟に間合いに入り、彼女を庇った。
直ぐに自身も引き下がり、ラクシュリと距離を取る。
どうする――どうすればいい!?

「勇者!!」
不意にシーラの声が聞こえ、何処に居るのかと思えばシーラはラクシュリの体を押さえつけていた。
「シーラ!」
「大丈夫だからっ!!さっさとモンスターをどうにかしろ!!」

何と言う危険な事を――!!
シーラが抑えているラクシュリの腕からは、刺激物の混ざった血液が流れているのだ。現にシーラの腕からは、赤い雫が滴り落ちていた。

「っ…露緘-アピア・シールド-!!」
不発だった決壊術を、アンジェリカはもう一度ラクシュリに向けて放つ。
苦しみ出したラクシュリからモンスターが分離し、崩れる様に倒れたラクシュリをシーラが何とかその場から引っ張りだした。
「ひぃい!!」
ラクシュリから分離したモンスターに術を打つ。
――だがそこに、モンスターの姿は既に無かった。

…逃げた、か。
構えていた剣をしまい、シーラとラクシュリに近付いた。

「シーラ!ラクシュリ!!」
「シーラちゃん!」
尻餅を着いて地面に座ったシーラの隣で、地面に蹲るラクシュリに反応は無かった。
掛けよったアンジェリカがラクシュリに治癒の光を翳し、俺はシーラの腕を掴み彼女の傷を見る。
…深くはなさそうだが、噴水の様に湧き出す血液に唇を噛み締めた。

シーラがやった事は無茶苦茶だ。
もしアンジェリカが露緘を外していたらシーラに掛かっていただろうし、分離したモンスターからラクシュリを連れて距離を引き離せなかったら、彼女
とラクシュリは術の飛び火を食らうか、モンスターの体液を浴びていたかもしれない。

今回は本当に運が良かった。

だがその運とシーラに助けられたのは確かなのだ。


「…ありがとう。だが…」
もう無茶をしないでくれ、と。腕の怪我に治癒の光を当てながらシーラに言えば、彼女は苦笑しつつ頷いた。



「…げほっ!!」
不意に苦しく咳込む声が聞こえ、シーラと2人、ラクシュリを見る。
「エクサ様!!…私だけじゃ術が追い付かない…っ!!」
傷口からは絵の具をぶちまけた様な赤色が滴っている。
シーラの傷がある程度回復したのを見、俺もラクシュリの横に座り、彼に回復術を当てた。…頼む。死なないでくれ…!!









ふらりとシーラが何処かに行くのを、回復術に熱中した俺とアンジェリカが気付くことは無かった。



04*Wine red Game




10-08,21


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